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ささやかなこの人生

中学生の時に同級生でかなり貧乏と思われる女子に出会った。
その子は意外と顔立ちが可愛くて、頭もそこそこ良かった。
学校ではおとなしくて目立たなかった。だから話したこともなかった。
気になり始めたのは、日曜日に町の図書館で彼女を見てからだ。
2学期に入ってすぐだと思うけれど、彼女は制服で図書館に来ていた。
閲覧テーブルで観察すると、爪は真っ黒で髪の毛は脂ぎっていた。
きっと風呂に入っていないのだろう。シャーペンを使っていなくて、短めの鉛筆と小さくなった消しゴムで、一生懸命何かを書いていた。
白い夏の制服は、襟部分がすっかり黄ばんでいた。
今まで気が付かなかったけれど、かなり大変な生活をしているのかなと思った。
何だか興味が出てきて、帰りにつけてみることにした。
彼女の家は図書館から自分の家と同じ方向だった。
彼女は徒歩、自分は自転車。
気が付かれないように少しずつ進んだ。

彼女の家は2階建ての外階段のあるアパートの2階で、きっと2部屋くらいのどちらかというと独身用のアパートみたいなところに住んでいた。
彼女が家に入った後で、2階の廊下に上がってみた。彼女の家は窓ガラスにひびが入っていてセロテープでとめてあった。
それより気になったのは、廊下においてある洗濯機だけど、土ぼこりみたいなものがかぶっていて蓋の上が黒くなっていた。
ってことはほとんど最近使用されていない、イコール洗濯をしていないということだった。
外も暗くなってきて、なんだか寂しくなってきたので帰った。

翌日学校で何気なく彼女を観察すると、しょっちゅう彼女は髪の毛をむさぶっていた。
髪の毛が痒かったのだろう。
休み時間に近づくと髪の毛にフケが浮いていた。
彼女の名前はE美だった。
E美はおとなしくて目立たない子だった。
だから休み時間もポツっと1人でいることが多かった。
きっと昨日着ていた服と同じなんだろう。
襟部分は黄ばんでいた。
ふと上履きに目が行った。
真っ黒といっていいほど汚かった。
自分もそれほどきれいに洗えていたわけではないが、4月から半年足らずであんなに汚くなるわけがない。
誰かが履いていたものを履いているのか、小学生の頃から同じものを履いているのかどちらかと思われた。
帰りがけに廊下で彼女とすれ違った。
学生カバンのほかに子供っぽい赤い手提げを持っていた。
持ち手部分がボロボロで、やっぱり黒ずんでいた。
間違いなく小学生の頃からずっと持ち歩いているに違いなかった。

10月になり冬服に衣替えになると、E美はくたびれたセーラー服を着てきた。
1年の冬だからきっとお下がりか古着に違いない。スカートもテカッていた。
しかも襟部分もやはり脂じみで色が変わっていた。
気になったのは普通は替えの制服を持っているが、彼女はどう見ても1枚きりのセーラー服しか持っていなかった。
白い線の部分で黄ばんでいるところがあって、いつもその汚れた場所は変わらなかった。
だからずっと同じものを着ていたんだ。
袖口は擦り切れていた。
肘部分もてかっていた。
なんだかすごく哀れだった。
相変わらず上履きはねずみ色だった。

秋深まった頃に、やはり日曜日にE美を町の図書館で見つけた。
彼女はいつもと同じセーラー服の上に、ジャージを着ていた。
ジャージといってもうちの学校は前開きでなくてかぶるタイプのもので緑の生地に袖に白の線が入っていた。
彼女の私服を見たことがなかった。土日でも制服と学校ジャージだった。
自分も薄汚れたジャンバー着ていたから人のことは言えなかったけれど、それにしても哀れだった。
帰り際に思い切って話しかけてみた。
なんでいつも土日も制服を着ているのかを尋ねてみると、彼女は素直に話してくれた。
すると、彼女は私服通学だった小学校以後、学校指定の緑のジャージしか洋服は買ってもらっていないこと、セーラー服はバザーかなんかで母親が見つけてきたこと、土日も着るものなくてついつい制服を着てしまうこと、制服は1枚しかないから洗うことができないことなどを話してくれた。
さらに彼女には父親がいなくて、母親がどこかの工場で働いているらしいことや、銭湯にも週1~2回しか行けないことなどを話してくれた。

翌、月曜日にE美は前の日の図書館と同じ格好だった。
セーラー服の上に緑のジャージ。
ジャージだけは中学生になる時に買ってもらったと見えてそれほどヤバクはなかった。
学校では話をしなかった。
知らん顔をしていた。
それは前の日に他の人には言わないで・・・と言われていたからもあると思う。
さらにほのかに自分が興味を持ち始めていたからということもあったはずだ。
それから毎日彼女の通学服は同じだった。

E美は毎日学校に同じ洋服を着ていた。
緑のジャージに制服のセーラー服。
スカートはテカッて、お尻部分も脂のしみがついていた。
下着は分からないが毎日洗っていたとは思えなかった。
緑のジャージは4月の入学の際に買ってもらったものと思われたが、毎日着ているから袖の白い線がすっかりねずみ色に変わってきた。
ねずみ色に汚れた上履きを履いていた。
(これは臭かっただろうな。)
髪の毛も伸び放題で、黒いゴムで結んでいたがバサバサだった。
悪い子ではなかったが、そばでよくニオイをかぐと臭ってきそうだった。
爪が黒いのと、割れているのが個人的にはイヤだった。
自分はE美が決して好きではなかったが、でもなんとなく汚れたものばかり着ていたり、かなり不潔そうな部分にいつの間にか興味を持っていた。
図書館で見かけると、セーラー服に緑ジャージだし、小学生の時から使っている薄汚れた手提げに小学生時代のキャラクター筆箱を持ち歩いていた。
11月の終わりの日曜に、またいつもの図書館で出会った。
よく見ると緑ジャージの袖口がねずみ色になっている。
閉館時間になって帰り際に入り口脇でE美が突っ立っていて、思わず声をかけてしまった。

「お前寒くないのか?」

外は暗くなっていて、深々と冷え込んでいた。

「寒い。」
「なんか上に着るものないのか?」
「うん。」
「オーバーとかセーターとか、お母さんのでもいいじゃん。」
「ない。」
「・・・。」

それから2~3週間過ぎて図書館に行くとE美がいた。
閲覧室に座って調べ物をしていた。
やはり緑のジャージ姿だった。
が、イスの背もたれにクリーム色のジャンバーがかかっていた。
閉館時間に外に出るとクリーム色のジャンバーを着たE美がいた。
彼女はかじかんだ手でジャンバーのファスナーを上げるところだった。
ジャージの膝は穴が開いていた。
(このスレではお決まりだが。)

彼女は僕の姿に気づくと、なぜか背を向けた。
そして歩きはじめた。
少し後をついていくと、急に彼女は振り向き、

「うちに来ない?」

と言った。
面食らった。
言葉が出なかった。
彼女は続けた。

「今日は親がいないの。」

なぜか僕は彼女がどんな生活をしているのかを見たくて、

「うん。」

と言った。
アパートの2階の彼女の家に入った。
こ綺麗ではあったが、質素だった。
インスタントコーヒーを黄ばんだマグカップに入れてくれた。
ダイニングと5畳くらいの和室しかなかった。
女の子のいる家庭とは思えなかった。
裸電球の下でこたつのテーブルを挟んで向かい合った。

こたつは確か電源が入っていなかった。
冷えたこたつの中に脚を入れた。
初めて気が付いたのだが、E美の顔立ちはそれほど悪くはなかった。
きちんと化粧とかすれば、あるいはそれなりのものを着せれば。
でも、にきびや吹き出物が気になった。
さらに気になったのは着ていた洋服。
セーラー服に緑のジャージはいつもと一緒。
その日は初めてジャンパー着ていた。
そのジャンパーが小汚かった。
こたつだからおなかから上部分しか見えないけど、胸のあたりは食べこぼし(だと思うが)のしみだらけだった。
ファスナーの部分が特に汚くて目だった。
ガキでもこんなに汚さないぜって感じ。
化繊のクリーム色のジャンパーで、肩から袖口に2本の茶色の線がついていた。
僕たちは震えながらコーヒーを飲んだ。

「寒いね。こたつ入れないの?」
「電気がもったいないからだめなの。」
「お母さんは?」
「20時ころまで仕事。」
「そのジャンパー・・・。」
「うん、子供っぽいよね。小5の時からずっと着ているよ。」
「って、いうか。すごく汚れているね。」
「うん。恥ずかしい。でもこれしか着るものない。」
「じゃあ、ずっと毎日着ているの?」
「うん。夏以外、家では毎日。寒いと寝る時も着ちゃう。」
「じゃあ、そのジャンパー着て寝て、朝起きたらそれを着て学校行ったりするんだ。」
「うん・・・。」
「洗濯する暇もないじゃん。」
「だからこんな汚くなっちゃうの。だんだん気にならなくなっちゃうの。」
「お母さんは洋服買ってくれないの?」
「うん。あの人は私が着ている洋服なんて、全く興味がないの。」
「でも、女の子じゃん。」
「父親はいないし、お金はないし、働いたお金は別のことに使っているみたい・・・。」

そう言うと彼女は立ち上がりタンスに近寄った。

「母親と共同のタンスで、5段のうち私の洋服は下の2段だけ。一番下が下着とか靴下。見たくないよね。その上が残りの洋服すべて。」

と言いながら、下から2段目を開けた。

(おじさんじゃないから一番下の下着は全く興味なかった。)

中は、どう見ても小学生用の、しかもくたびれた服ばかり。
毛玉だらけのシャツや到底小さくて着れないカーディガンなど私服をそれほど持っていない中学男子でも、もっとたくさんの洋服を持っていた。
かわいそう極まりなかった。

正直、びっくりした僕はコーヒーを飲み終わると立ち上がった。

「そろそろ帰ろうかな。」
「また、来週の日曜日に図書館で会いたいな。」
「毎週、図書館かい?」
「だってこの部屋じゃ勉強もできないし、暗くなっちゃうし。」

確かに日曜日の1日中ここにいるのは僕もごめんだった。
彼女は意外と明るく淡々と話す子だった。

「わかった。今日はこれからどうするの?」
「お風呂行く。支度するから待ってて。」

そう言うといきなり僕に背を向けてジャンパーのファスナーを一気に下ろした。
緑のジャージを脱いでセーラー服も脱ぎ始めた。
僕は目のやり場がなくて反対側の壁を見た。
米屋かなんかのカレンダーがかかっていた。
母親の地味な洋服がハンガーで吊るされていた。
彼女はセーラー服を脱ぐと別のイモ色ジャージ上下を着て、同じ汚れたジャンパーを着た。
そしてタオルと石鹸とプラスチックの洗面器というお決まりの銭湯グッズを持った。
僕は家に、彼女は銭湯にと途中まで一緒だった。
彼女は一人で話し続けた。

「このジャージは学校から家に帰り、翌朝まで着るの。小学生の時に従妹から貰ったの。もう小さいし、膝に穴が開いちゃったけどね。大事にまだまだ着なきゃ。明日は学校だな。いやだな。だっていい加減寒いからこのジャンパー着ていかなきゃ。みんなに笑われるな。でも着ないと風邪引いちゃうよ。学校では話をするのやめようね。私おとなしくしている。来週、図書館で待っているね。絶対来てね。じゃあバイバイ。」

その日は本当にE美の体や女性という部分には、ドキドキするようなことはなかった。
しかし、E美が着替える時に興味がわいたのは、彼女の脱いだセーラー服や緑ジャージだった。
休みの日も含めて昼間はずっと着ているわけだから、どんなに臭いんだろう?と気になった。
さすがにニオイ嗅がせてとは言えなかったが、脱ぎたてのセーラー服を触ってみたかった。

翌日、学校に行くと彼女はすでに席についていた。昨日のセーラー服を着ていた。
いつかあのセーラー服のニオイをかいでみようと、このとき思った。
そして、クリーム色のジャンパーがかかっていた。
とうとうあの汚いジャンパーを中学に着て来たんだと思った。
そういう僕も制服の上に羽織っていたのは、小学校の時から着ていた紺色のジャンパーだったからあまり変わりはしないが、あんなに汚れてはいない。
他の女子は赤やグレーの可愛いコートを着ていたり、スポーツブランドのウインドブレーカーみたいなものを着ていた。

翌週、僕とE美は図書館で約束どおり会った。
その日は外が寒かったのか図書館の暖房が効いていなかったのか、コートやジャージを着たままの人が多かった。
僕も紺のジャンパーを着たまま小説に夢中になっていた。
E美は期待通り?!の浮浪者が着ているようなしみだらけのクリーム色ジャンパーを着ていた。
ファスナーを一番上まであげていたから胸部分の汚れもはっきりと見えて興奮した。
彼女がトイレに立ち上がったときに、ふといつもと違うなと思った。
そうだ、セーラー服を着ていない。
ジーンズを穿いていたのだ。
すごく意外だった。
なんだジーンズ持っているんだと思った。
閉館時間になって、一緒に帰り始めた。
ジーンズは洗いざらしで膝には穴が開いていた。
でも意外に足が細い彼女は、ジーンズが良く似合った。

「休みの日に男の人に会うのに制服じゃあ冴えないじゃん。」

彼女は言った。

「この格好(しみだらけジャンパーに穴あきジーンズ)」が私の精一杯のおしゃれだよ。」

そんな言葉を聴きながら、正直僕はドキドキしていた。
自分を疑っていた。
怖かった。

(なんでこんな貧しい子に興味を持っているんだ。)
「うち寄っていって。」

誘われたが、その日は怖くて断った。
でもこう言った。

「また来週会おうね。」

それから2~3週間はみんなの期待どおりに進展しなかった。
日曜日に図書館で出会い、帰りに彼女が一方的に自分のことを話しながら帰った。
彼女の家の前で別れた。噂話になるのもいやだった。
付き合っているわけじゃないし。
彼女は学校できっとみんなから冷たくされているのに、友だちの悪口は何一つ言わなかった。
昔から慣れていて、悪口を言えばどんどん自分が「のけもの」になってしまうと考えていたみたいだ。
一回彼女と銭湯に行きたいなと思ったけれど、うちには昔から風呂があって銭湯に行くなんて習慣はなかったから、親に怪しまれると思ってやめた。

師走の日曜日、彼女は家の前で話し続けて、僕をなかなか返してくれなかった。

「お母さんは一人娘の私を小学生の時には少しは可愛がってくれたけど、最近はまったく私を構ってくれないの。洋服も全く買ってくれなくて、どうやらお父さんがいなくなってからお下がりの洋服をくれる人もいなくなっみたい。夕食をちょこっと作ったり、外でコロッケとかを買ってきて食べさせてくれるけど、愛情がないんだ。ご飯食べながら仕事が大変だとか、父親はひどいねえとか、早く中学卒業して働いてねとか、そんな会話ばっかり。それからね、私が昼間学校に行っている間に家の中に絶対他の男の人が上がっているんだ。間違いないよ。私いやだけど。学校から帰ると流しに湯飲みが2つ置いてあったり、玄関に使わない靴べらが置いてあるの。このまえお母さんに今日誰か来たのって聞いたらね、あの人ごまかすのよ。あんたには関係ないとか言うし。一度「ショートホープ」のタバコの空き箱が床に転がっていて、じゃあこれは何?って聞くと、大屋さんが家賃を催促に来たときに上がって家を見たんだよとか言っていたけど、前もお母さんが吸わない「ショートホープ」の箱がゴミ箱に入っていたのを何回か見て私知っているんだよ。絶対ヘンだよ!」

E美は母親の男性の影を感じていたらしい。

僕はE美にお母さんがどんな仕事をしているのと聞いてみた。

「はっきりわからないんだけどさ、建築現場にあるドカタの事務所で事務とかお茶汲みとかやっているんじゃないかと思う。プレハブとかでよく建っているのあるじゃん。聞いても教えてはくれないんだけど毎日仕事行く時と帰ってくるときは胸に建設会社の会社名が入ったドカジャン(ドカタの人が着ている厚ぼったいジャンパー)を着ているから間違いないよ。夜はハンガーにかけてかかっている。そうじゃなきゃ、女の人があんなの着ないよ。お父さんはセールスマンだったから違うし。それからね、あの人昼休みとかに同じ事務所のドカタさんを家に連れ込んでいるのではないかと思うの。ご飯食べるのかいやらしいことするのか知らないけど絶対間違いないと思うな。だからタバコの箱置いてあるんだよ。夜はどこか他でバイトをやってるんじゃない?9時過ぎに帰ってきてご飯だよ。これじゃ私かわいそうって思うでしょ。」

2学期も押し迫ったある日の放課後、校庭の隅の鉄棒に腰掛けているE美を見つけた。
が、何かがいつもと違う。そう、見たことのない赤のテカテカしたジャンパーを着ていた。
周りに誰もいないのを確認して近寄った。

「どうしたの?それ買ってもらったの?」

きっと僕はニコニコ顔で言ったに違いない。
予想と反して彼女は首を横に振りながら

「ううん、Mさんの。ちょっと交換しようって言うから。」
「で、Mさんどこ行ったの?」
「体育委員会だって言ってた。」

Mさんといえばクラスでもかなり目立っているバスケ部の女子で、快活という言葉がびったりのスポーツ少女だった。
不思議に思いながらも、今日の小テストは出来どうだった?なんてつまらない話をした。
そこへ、例のMが戻って来た。
E美の汚れたクリーム色のジャンパーを着ている。

「あ?疲れた。ありがとね。いっぱい汚しといたよ!」

と言いながら壊れるほどの勢いでファスナーを下ろし、地面に脱ぎ捨てた。

「それより、何で私の勝手に着てるのよ。持っててって言っただけじゃん。まさかあんた人の服汚してないよね。」

と言う。

「そんなつもりじゃ~。」

E美は声にならない。
代わりに僕は嫌われるのを承知でどなった。

「ちょっと着ただけで汚れるわけないだろ。大体そっちから交換しようと言ったんだろう~。」
「わかってないのね。今日は体育委員会で体育倉庫の掃除やったんだよ。倉庫の中って埃だらけでクモの巣張っているし、石灰で手は真っ白になるし、私のこの赤いジャンパー汚したくないじゃん。だからこの子に持っててもらったの。でも倉庫の中はかなり寒いんだよね。だから、ほらこの雑巾みたいなジャンパー着て掃除したんだ。いくら汚してもこれなら平気じゃん。」

もうその頃はE美は泣きだしていた。

「とにかく、ありがとね。それにしても二人仲がいいのね。」

そう言うとさっさと戻ってしまった。

Mが去り、残されたE美を眺めるうちに、僕が彼女を守ってあげないと・・・という感情が初めて芽生えた。
地面に投げ捨てられた彼女のジャンパーを拾いあげて思い切りはたいた。脱ぎっ放しで裏返しになっていた袖に手を入れ表に戻す。
彼女が毎日着用している服の袖に一瞬でも手を入れるのにどきっとした。
もともとジャンパーにこびりついた汚れやしみが見えなくなるほど埃や石灰で真っ白になっていた。

「こりゃひどいね。」

と言いながら手ではたくと、自分の手や着ていた紺のジャンパーまでもが真っ白になる。
鉄棒に打っ叩いた。
埃が舞い上がる。

E美はしくしく泣いていた。

彼女の代わりに僕は怒りをぶつけながら力まかせにはたいた。
ふと、ポケットにも砂が入っているかな?と手を入れる。
入れ口の破けたポケットの中には、くちゃくちゃに丸まったハンカチが入っていた。
赤い縁のアニメのハンカチだった。
きっと小学生の時からずっと丸めて入れっぱなしなんだろうなあと思った。
片方にはやはりくちゃくちゃのティッシュが入っていた。
捨てればいいのに、そのまま戻した。
この時のことは今でも鮮明に覚えている。
中学生でこんな女子がいたんだって感じだった。

泣くE美に僕は帰ろうと声をかけ、二人は歩き始めた。

「ムリに一緒に歩かなくていいよ。」

みたいなことを彼女は言ったが、そんな状況でなくて彼女の家の近くの小さな公園に寄り、ベンチに腰を下ろした。
彼女はジャンパーのファスナーを上げながら、

「しょうがないよ、寒いんだから、これしか着るものないんだから~。」

など、ぶつぶつ言うのを僕は黙って聞いていた。
話題が変わり、

「もうすぐ冬休みだね、年末年始は図書館閉館だからしばらく会えないね。」

ということになった。
彼女は田舎に行くらしい。

「年が明けたら一緒に遊園地に行きたい。」

と彼女が言い出した。
僕は

「いいよ。」

と答えた。
嬉しそうだった。
1月の中旬で日も決めた。

「この同じ格好でいい?」

E美は言った。

「もちろん。学校の制服だけはやめてね。」

僕は言った。
彼女は微笑んだ。
そしてバイバイと手を振って別れた。

年が明けてE美と冬の遊園地に行った。
どんよりした寒い日だった。
家の近くの駅だと誰かに見られるのがいやだった僕は、遊園地の下車駅で待ち合わせした。
彼女が先に待っていた。
(期待はしていなかったが)遊園地っぽいバスケットのカバンやお弁当などを持っているわけでもなく、手ぶらで立っていた。
洋服はもちろんしみだらけジャンパーと穴あきジーンズに黒ずんだスニーカーだった。
自分は紺のジャンパーにベージュのコールテンズボンだった。
E美はお爺ちゃんからのお年玉だと言いながら、入場券を買う。
ジーンズのお尻のポケットから取り出した財布は、ひと頃ティーンズ(死語?)ではやったポケットがたくさんあり三回折り合わせてマジックテープでとめるタイプの財布だった。
E美のはもとは薄いピンク色のものだが使い古してすっかりねずみ色になっていた。
アイロンがかかったハンカチはきっと持っていなくて、まだあのまま丸められたものがポケットに入ったままなんだろうなと想像できた。
でもひとしきり彼女は明るかった。
嬉しそうだった。

お互い男女二人きりでの遊園地は初めてだった。
片っ端から乗り物に乗りまくった。
ジェットコースターではキャアキャア叫びながらE美は僕にしがみついてきた。
初めてE美の手を握った。
小さい手だった。
続いてループコースターに乗った。
その時代はヒネリとかなくて単純な1回転のものだけだった。
がちっと体がホールドされるため体を寄せたり手を握ることはできなかった。
降りたあと、E美はへなへなと座り込んでしまった。
仕方なく僕は彼女の腕を自分の肩に廻して抱えながら階段を下ろした。
彼女の頭がすぐ近くにあり、そのときの彼女のニオイを僕は今でも忘れない。
首もとはなんかちょっとすっぱい感じの、髪の毛も独特のにおいだった。
前日に銭湯に行ったのか髪の毛にフケとかなかったが、シャンプーのニオイもしなかった。
石鹸ちょっとつけてお湯で流している程度だったのだろう。
すぐ近くで見てもっと気になったのは、着ていたジャンパーの襟元はホント黒ずんでいた。
汗や髪の毛の脂によるものだと思うけど、その部分も臭っている感じがした。

アメリカンドックにポップコーンとジュースを買って外のテラスで食べた。

「小さい手だね、見せて。」

手を伸ばして引きずり寄せた。
小さいのにびっくり。
アカギレやササクレだらけにびっくり。
爪が汚いのにびっくりだった。
すごく冷たい手だった。

「ハンドクリームとか塗ったほうがいいんじゃない。」
「そんなの家にないよ。朝も夜も顔洗うのは水だよ。」
「痛くない?」
「慣れてる。」

僕の手を握ってきて

「暖かい手だね。」

と言った。
クラスメートのいる教室でこんなことは絶対にしなかった。
でも二人だけだと彼女に興味を覚え、いつの間にか引き寄せられていった。
手を握り合っている間、彼女のジャンパーの袖口が真っ黒なのに改めてびっくり。
しみ部分がこすられてテカッテいたりした。
思わず

「袖口汚いなあ。」

と言ったら手を引っ込めて悲しそうな顔で

「そうだよね。汚れすぎだね。いやだよね。」

と言うので、

「そんなことない。もう1回見せて。」

と言って両袖を眺めた。

「これだけ大事に着ているんだよ。俺はそんなE美が好きだよ。」
「しかしよくこんなに汚すなあ。」

と二人で笑った。
女子の汚れモノにどんどん興奮するようになってきた自分が怖かった。

E美がアメリカンドックを食べはじめた。
ケチャップとマスタードをべっとりつけたアメリカンドックをくわえた瞬間に、ケチャップが垂れてE美のジャンパー胸部分にぽったり落ちた。
勢いついて少しずつ下に垂れて細長いケチャップのしみができた。
慌てずに食べている彼女。
ケチャップが下に垂れていくのが気になる僕は紙ティッシュを取ってきて胸元を拭いてあげた。ジャンパーの上からだけど少し膨らんだ彼女の左胸を触った。
こするとますますしみが広がる。
しみだらけの上に新しいしみができて、ガキでもこんな洋服を親が着せないよって感じだった。

「ありがとう。大丈夫。どうせ汚いから。」
「今度洗濯しないとね。」
「ううん。洗わないよ。だってこのケチャップのしみはあなたと二人で遊園地に来た思い出だもん。」
「ええっ?ちょっと待ってよ。そのままにしておくとホントに赤いの落ちなくなるよ。」
「思い出だから洗わないで取っておく。」
「じゃあ、そのたくさん付いてるしみも全部思い出か?」
「そう。つらい思い出・・・。家で一人でご飯食べながらこぼしたり、小学校の時に汚ねえよこの服といじめられて泣いた思い出。でもあなたはこんな私と一緒にいてくれる。」

僕はその新しいしみを見ながらどうなっちゃうのかなと思った。

観覧車に乗った。
小さいゴンドラで向かい合わせに座りどんどん高く上がっていった。
下界に小さく見えるものに反応しながら騒いでいると、突然彼女は自分のすぐ横に移ってきた。
並んで座り腰の後ろから手を廻してきた。
それから僕の膝の上に乗ってきて抱き合う感じになった。
彼女の独特のニオイをかぎながら、ゴンドラの中で抱き合った。
彼女は目を瞑っていた。
気が付くともう下だった。

一度降りてから彼女はもう1回だよと言って、有無言わさず乗り場に僕を引き連れて行った。
冬の閑散とした遊園地は観覧車の列などなくて、そのまま乗り込んでいった。
係員はバランスの問題があるから向かい合わせに座ってねと言うが、ゴンドラが少し上がると彼女はすぐに抱きついてきた。
二人が動かない時間が少しあって、今度は瞳を閉じて早くって顔をした。
僕も興奮しながら彼女の唇に自分のをそっと重ね合わせた。
中1の冬、自分の初キスだった。

舌の短い僕はうまく彼女の中に入れられないが、彼女の舌は僕の中をぺろぺろ舐めていた。
降りてから薄暗くなった木陰のコカコーラのロゴの入った赤いベンチで再び楽しんだ。
閉園時間の放送で帰った。
あたりは真っ暗だった。
2月に月曜が祝日の連休があった。
日曜日に図書館で一緒になり、閉館時間にいつものように帰った。
帰り道でE美は

「今日、お母さん帰ってこないの。明日仕事休みでどこかに泊まるって。だから寂しいから家に来て。」

と切り出した。

「絶対お母さん帰ってこないの?」
「うん。だってわざわざ言って出るくらいだもん。きっとドカタさんのとこでも行ってんじゃないの。」
「でも黙って泊まるわけには行かない。」
「じゃあ、これから私は銭湯行くから、その間に家に一度帰ってきたら。」
「わかった。」

家に帰って、簡単にご飯を食べた。
それから

「今日これから友だちと集まって宿題やるから。」

と母親に言った。

「なんで夜にやるのよ、誰の家?書いておきなさい。」

クラスのヤツだと電話されたら困るなと思った僕は部活の先輩の小林さんと書いて(そんな先輩いなかったけど)、家にあったカップヌードルやポテトチップスを持ってE美の家に向かった。
彼女の家のドアをノックすると銭湯に行ってさっぱりとしたE美が出てきた。
イモ色ジャージにいつものクリーム色のしみだらけジャンパー姿だった。
ドアの鍵を閉めるなり彼女は抱きついてきた。
家の中はすごく寒かった。
ストーブの石油はないらしい。
二人はジャンパーを着たまま抱き合ってキスをした。
ほのかに幸せだった。
畳の上でコタツをどかして転げまわりながらキスをした。
彼女はどうかしているんじゃないかというくらい積極的だった。

「これだけじゃいや。」

E美は叫ぶ。
僕は無造作にE美の汚いジャンパーのファスナーをそっと下ろした。
胸が高まっていた。
この汚いジャンパーの下はどうなっているのか?
びっくりしたのは彼女は上半身裸の上にブラジャーもしないでそのジャンパーを着て僕を待っていたのだ。
彼女の色白の裸が飛び出てくる。
彼女も僕のジャンパーのファスナー下ろすが、当然自分はシャツやセーター着ていたから慌てて脱いだ。
彼女はジャージを脱いだ。
イモ色ジャージのニオイを初めて嗅いだが、なんともいえない汗っぽいニオイがした。
その下に白い「パンツ」が出てきた。
パンティじゃなくてパンツ。
ただのパンツ・・・。
小学校低学年の健康診断で男女一緒に保健室に裸で入ったときに、女の子が穿いていたようなやつ。
そうグンゼといったメーカー品じゃないけどそんなヤツ。
しかも彼女は白いのと薄い黄色のを二枚重ねにして穿いていた。
しかもいずれもかなり黄ばんでいて、一部茶色いしみの痕(洗濯しても落ちなかった?)も残っているパンツで、もうくらくらしてきた。

E美の胸は大きいと言うわけではないが、中学生らしく育っていた。
あそこの毛もそこそこ生えていた。
いくら貧乏でも体はしっかりと女性の体になっていた。

裸の二人は一気に絡み合った。
僕たちはお互い触りあったり舐めあったりした。
貧乏とか関係がなかった。
最高の気分だった。
これが快感なんだ。
風呂に行ったばかりのE美の肌はすべすべだった。
E美とそんなことしている自分が不思議だった。
E美の洋服の汚さや貧しさに興味を持っていただけなのに、どうしてと思った。
だけど今はE美が大好きで仕方なかった。
求め続けた。
E美の中に入ってみた。
E美は優しく僕を包んでくれた。
僕の中から思いっきり飛び出して、E美の中で交じり合う。
ずっと夜が明けてくれないで欲しいって思った。
夢中になって彼女を求めた。

くっつきあっている二人の体も、暖房のない部屋でさすがに冷えてくる。
僕たちは我に帰って、起き上がった。
ぶるっとしてE美は裸の上にジャンパーを着て、ファスナーを一番上まで上げた。
シャツを手に取ろうとした僕に

「直接ジャンパー着ると気持ちいいよ。」

といって紺のジャンパーを渡してくれる。
なるほどキルティングのさらさらした生地が体に優しい。
ジャンパーに下半身裸で突っ立っているE美を見ると再び興奮してくる。

「そんなにじろじろ見ないでよ・・・。恥ずかしいよ。」

E美はそう言いながら台所の電気をつける。

「お湯沸かすからカップヌードル食べようよ。お腹すいちゃった。」
「うん。そうだな。」

台所でE美の後姿を見ながら返事をする。
上半身はE美のニオイがしみこんだジャンパーを着て、下半身は裸でおしりを向けている。
それを見ていると、再び僕のあそこが固くなってくる。

「パンツくらい穿いたほうがいいんじゃない?寒くないの?」
「なんで。さっきあんなにじろじろ見ていたじゃない。かわいいおしりでしょ。」
「そうじゃなくてさあ、寒いだろう。風邪ひくぞ。」
「でもね私は寝る時いつもこの格好だよ。」
「パジャマとか、ジャージとか。」
「パジャマなんてないんだよ。そんなの。あっても小さくて着れないよ。」
「そうか、ごめん。でも・・・。」

カップヌードルにお湯を注ぎながら話が続く。

「親がいるときはもちろんジャージ穿くけどさ。でもパンツの数があんまりなくて足りなくなっちゃうの。学校行く時はノーパンってわけ行かないし。冬は冷えるから二枚重ねにするじゃない。そうすると夜に洗って干しておかないといけないし。」
「え~、パンツ買ってくれないの?」
「うん。みんな小さくなっちゃったよ。毎晩、裸の上にこのジャンパー着てそのまま布団に入ってそれからここを自分でいじくり廻すんだ。気持ちいいよ。今日はもっと気持ちよかったけど・・・。」

E美はまだ僕が最近やっとその言葉と意味を覚えた「オナニー」を既にやっていたのだ。
僕とE美は寒い部屋でカップヌードルをすすっていた。むちゃむちゃおいしかった。
彼女はやっぱりジャンパーの胸部分に汁を飛ばしながら、勢いよく食べていた。
クラスのどんなかっこいいヤツよりもどんな可愛い子よりも幸せな気分なことは、間違いなかった。
下半身裸のE美が向かいでカップヌードルを食べている。
どんなに貧しい家庭の子でも、こんなに気持ちの透き通った子はいないと思ったし、裸になれば裕福も貧しいも全く関係ないんだなあと思ったことを今でも覚えている。
食べ終わると、合図したわけでもなくE美は僕に寄り添ってきた。
そして再び抱き合い、今度は上半身ジャンパーを着たまま二人はもつれ合って楽しんだ。
素っ裸で胸を触りながらも萌えたけれど、クリーム色の汚れたジャンパーもキルティングが入っているから触り心地がよいし、彼女が寝る時に毎日素肌に直接着ているわけで彼女のニオイがたっぷりしみこんでいるはずで、十分に興奮できた。
もちろんE美のアソコはいつでもウエルカムといった感じで濡れていた。

お互いにジャンパーを着たままのエッチが終わった。深々と冷え込んで暖房器具のない(というか、灯油のない)E美の家は悲惨そのものだった。
二人はせんべい布団を敷き抱き合って寝ることにした。
なぜかその時、思いついて僕は言った。

「ねえ、ジャンパー交換しない?」

毎日毎日小学校の時から着続けて、寝る時も素肌の上に着て、しみだらけで汚くてE美のニオイのしみこんだジャンパーに興味を持ったのだ。
どうしても着たくなった。
二人は交換した。
ちょっと窮屈だったが中学生としては小さめの僕は素肌の上からは容易に着ることができた。
袖を通して袖口の汚いゴムがぴたっと密着する。
ファスナーを上まで上げる。
すると、もう僕はE美の汗臭い体臭のしみこんだジャンパーに包まれ、アソコは痛いほど勃起し心臓も高鳴った。
内側のキルティング裏地もなんかじとじとしている。
きっとさっきのエッチでかいたE美の汗だろう。
それから毎晩の寝汗もここには染み込んでいる。
もう耐えられなかった。
僕の紺のジャンパーを着たE美も興奮気味だった。
嬉しそうだった。
二人は再び合体した。
寝ながら僕はE美の真っ黒に汚れているジャンパーの袖口を嗅いでみた。
なんともいえない酸っぱいニオイだ!
でもそのニオイに病み付きになる。
ポケットに手を入れてみる。片方のポケットにはいつか見つけたくちゃくちゃのハンカチとティッシュがそのまま入っている。
体つきは大人とはいえないかもしれないが思春期の少女なのに、本当はおしゃれが楽しくて仕方のない年頃なのにE美にはこれしか着るものがない。
そのたった1着のジャンパーを僕は取り上げて着ている。
でも、本当はそのジャンパーを家へ持って帰り、毎日着たりニオイを嗅ぎたかった。
きっと毎日情熱的なオナニーができただろう。
でも、残念ながら彼女も僕も1着ずつしかジャンパー持っていなかったから、交換すれば自分がE美のジャンパーを着て学校に行かねばならない。
そりゃ無理だ。
そんなことを考えながら、そしてE美を抱きしめながら、眠りに入っていった。

その後も何回かE美の住む汚いアパートで母親のいない夜に僕たちは楽しんだ。
E美の汚い格好で僕はいつでも興奮できた。
しかも汚れた小学生用ジャンパーのファスナーを下ろすと思春期の女性らしい真っ白な素肌が登場した。

一度、E美と寝た時にすごい異臭がしたことがあった。
E美も最初に

「ごめん、最近全然銭湯行っていないんだ。」

と言っていたけど、それにしても中学女子にはありえない浮浪者っぽいニオイがしたのを覚えている。
でもそんなE美のことが好きで好きでたまらなかった。
そんなE美とゴールデンウイークの初めに会ったときにいつになく暗い顔をしていた。
中2の春だった。まだ肌寒くもちろん彼女はいつものしみだらけクリーム色ジャンパーを着ていたのだが、古びた喫茶店でいきなり彼女は泣き始めた。

「私、引っ越すことになった。かあさんの田舎の親戚の家に住むみたい。」

と話す。

「えっ?」
「・・・。」
「いつなのそれは?」
「あさって。」
「あさってって・・・?」

と激しいやりとり。
目の前が真っ白になっていく。
E美がいなくなってしまう・・・。

「よくわからないけどかあさんが付き合っていた土方さんがいたでしょ。あの人と喧嘩したみたいなのよ。最近ずっと家にいて機嫌悪い。で、引っ越すって突然言うの。」
「ダメだよ。」
「でもあなたと一緒に住みたいけど、まだ中学生だもんね。」
「・・・。」

それから喫茶店を出た。
E美の家では母親が荷造り中という。
しかも今日が僕とE美の最後の日になりそうだった。
突然だった。
薄汚い洋服を着て脂っぽい髪の毛のE美を他に好きになるヤツはいないと勝手に想像していた。
だからいつも一緒にいられると思った。

二人は腕を組んで夕暮れの公園に行った。
そこで何を話したのかは覚えていないけれど、ずっとE美が僕との思い出話(というほど年月は経っていないのに)をしていた。
僕は話はそっちのけで彼女の体が欲しかった。
すっかり暗くなって僕は彼女の腕を引っ張り木陰の茂みの中にいった。
目立たないところで

「最後だね。」

といいながらE美のジャンパーを脱がした。
そしてホントに最後のお別れHを楽しんだ。
屋外のHは僕も最初で最後。

E美の独特の体臭を嗅げるだけ嗅いだ。
E美も僕を触るだけ触った。
それからもう1度E美のジャンパーを着たいといって袖を通した。
そして酸っぱいニオイをクンクン嗅いだ。
ファスナーを閉めてみた。
ポケットには相変わらずクシャクシャのティッシュが入っていた。
脱ぐと彼女に着せた。
それから自分のジャンパーを彼女に着せた。
僕も小学校時代から着ていたヤツだったが、E美のよりは大きいしそれほど汚れてもない。
もう5月になったらジャンパーもいらない。

「これ、おまえにあげる。新しい土地でこんな汚い洋服着ていたらバカにされちゃうぞ。だからこれ使って。たまに僕を思い出せよ。」

みたいなことを言ったはずだ。
E美は泣き出した。
そして

「じゃあ代りに私のジャンパーもらってくれる?」

と言ってきた。
断った。

「あなたのジャンパー大切にする。毎日着るよ。」
「その代わりその汚いのを洗濯しろよ。」
「ううん、洗わないだってあなたの匂いが残っているもん。」

E美の家の近くで僕たちは別れた。
E美はクリーム色の自分のジャンパーの上に僕のジャンパーを重ね着していた。
暖かそうだった。
穴の開いたジャージともさよならだった。
最後に彼女は

「ありがとう。」

と僕に言った。
真っ暗な夜道でずっとバイバイと手を振っていた。
ジャンパーを彼女にあげたから、ちょっと寒かった。
トボトボ家に帰った。
それからは手紙も来なかった。
E美の消息はわからない。

こんな僕もまだ独身。

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